髪を染めることにした。どうやって染めればいいのか詳しくないので調べてみると、一度今の色を抜いてからの方がいいとのことだった。それは有り難い。しかし、いざ染めてみると随分と気が鬱いだ。自分から彼の君の色を抜いておいて難だが、こんなにきらきらした色は自分にはまるで似合わない。装飾品ですら地味なものを好む質であるというのに、ましてや髪など。嘗て視界にちらついていた黒は見当たらない。なんて世界は明るいのだろうか。鏡の中で苦々しい顔をした自分は、さらさら輝く金の髪を結った。あとは隊員を慈しむ顔を浮かべればいいのだ。
(黒→金)


普段は剣を握る手が、座って武器の手入れをしていた自分の頭を撫でた。少しだけ身体が震えるのを隠して何だよ、と言うと、綺麗な髪だよな、と微笑まれた。胸が弾む。と同時に、ああこいつの綺麗な指が自分なんかの髪をいじっているのかと思い、毒されていくような感覚が頭から拡がった。なんて綺麗な金色の毒だ。 腰まで伸びた長い銀髪を鋤きながら美しく笑う相手の気配を背中の方から感じながら、明日にでも切ろう、と思った。ついでに染めてしまおう。黒か、茶色か、そんなような色にでも。晩飯を作ろう。
(長→短)


いつの間にか黒い色でなくなっていた自分の髪を摘まみながら、いつからだったか一時考え、どうでもよくなって、今日の晩飯のことを思った。腹が鳴った。そういえばいつか見かけた兵士は美しい銀髪だったな、あれを真似したような気がするのだが。どこか面影の似ている晩飯を作る男はくすんだ色の髪をしているし、髪は短いし、まぁ人違いなのだろう。晩飯が楽しみだなー、と笑い掛けてきた金色の男に向かって頷いた。また腹が鳴った。
(黒→銀)


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