私はなかなかに心根の曲がった僧侶である。臆病というやまいに震える少女にすぎないため前線には向かない。 しかし僧侶とは剣を翳し武勇を誇るためにあるべきであろうか。僧侶があるべきなのは血にまみれた戦場ではなく血を洗う神域であろう、少なくとも私はそう思 う。懐に忍ばせている短剣もいざという時神の御元にいかんとするためである。私の信仰するべき神の教えでは自決は禁止されている。しかし今私のある場所に 神は降りていらっしゃらない。人のものでない穢れた血に染まる金髪の男は口角を吊り上げ不敵に笑っている。彼は今この場所で、唯一私の信ずるに値する、神 のような人である。後ろから眺めていても鬼神の如く攻め進む金のしっぽは美しく、私より少し濃い。この人が手首を、喉を切れと仰るなら、私が戦場にあるか ぎりそうするつもりでいる。御言葉である。彼の斬りつけた先から鋭い爪が伸びた。私が小さく悲鳴をあげた後、少しよろめいた我が神は哄笑し、直ぐ様相手の 腸を裂いた。凄まじい声と共に地に臥せた畜生を切っ先で突き、彼が相手を葬ると同時に、既に駆けていた私は杖を取り神経を集中させる。ほわっと周囲が温か くなり、青白い印の浮かび上がる向こうに彼がいる。肩から胸に近い位置までざくりと傷ついたそれはしゅわしゅわと音をたてて癒えていく。私は少し集中を緩 めて意図的に安堵の笑みを浮かべる。一度足元に転がる獣に侮蔑の眼を向けて杖の先でぐり、と抉るように詰った。彼に穏やかに微笑みかけると、彼は少しじっ と私の眼を見つめ、何を思ったかにやりと笑うと、確認するように肩を動かし剣を回した。ありがとうと言う彼に、お気をつけてと心配げに返すと、聞く耳持た ずにまたどんどん先へいってしまった。私は彼の肉が傷口を塞いでいった先程の光景を思い、口許が緩むのを抑えられなかった。どくどくと血を流していた彼の 細胞たちを、私が治した。私だけが!私だけが彼の肉を死滅から救い得たのだ!毎度のことながらあまりの興奮と幸福にスキップしてしまう。あぁ畜生共の世界 で金はなんて美しく気高いのか!今日も私は、ぐにゃぐにゃに曲がった自らの性根を肯定しながら、ここで生きていくのである。

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