ねえ、またそうやって切なそうに笑うのですか。貴方が悲しそうに過ごしていた、かつての夕方の、笑い声の、それを吸い込んだ地面の、その後こっそりと泣いていた貴方の涙の、星が求めた水分の、潤いの、行く末はなんだったのですか。
私は、私は。

淡く藍のかかった夜空に不規則にちりばめられた小さな点は、何億年前に生きていたあかしなんだろうね。

そういった貴方の悲しそうな横顔に、なんとなく涙でも浮かべてやりたいわ、なんて思って。
あの日、私が貴方を見て泣いてしまったことはすでになくなった(亡くなった、もしくは無くなった)ことなのです。もちろん貴方の中では。
私にとって流星群のあの日はまだこの身の中で生き続けているのですが、もう燃え尽きた星の行き先がわからなくて、燻らせているだけなのかもしれません。

城の見える丘の寒いことといったら、そりゃあ狼の毛皮をはぎ取りたくなるほどのものなのです。そんなことはしませんが。
ああ、けれどなんて寒いこの場所。
それなのに貴方の城を見つめる瞳の切なさといったら。こちらが悲しくそれを見守るのに気づきもせずに。

潤んでいた瞳の奥がキリキリと熱を帯びて貴方のみずみずしかった表面を焼いていたのです。
つまりは、貴方の目はそこまで潤んではいないのだ、ということですが。
私の目が潤んでいたからなのだと気づいたとき、貴方はそっと目を伏せて、長い長い睫毛は美しく震えていて(もしかしたら私が震えていたからかもしれない)ぐっと握りしめたこぶしは、ただでさえ寒さで白くなった肌をより白くしていたのです。
その身に血は通っていますか。

こちらをちらりと見た貴方は、すごく切ないその藍を細めて笑ったのです。
ええ、それはそれは美しく、切ない笑顔だったのです。
かなしそうに開かれた乾いたくちびるから、しっかりと芯のある咽喉のもっと奥から、音が聞こえたのです。

太陽はなんであんなにも燃えているのだろうね、自分を傷つけてまで、この星を照らしているなんてさ。

最高の自己犠牲だね、そういって貴方はまた笑うのです。
あの、流星の日の切なそうな笑顔が、より闇色を濃くしていて。ああ、この人は変わってしまったのだわ。澄んだ笑い声はもうしばらく聞いていないのです。どんどん似てくる面影に、甘い殺意を抱いてしまう程度の卑しい人間なのです。
私は、私は。

高く響いたあの日の笑い声が聞こえたような気がして、瞬きを少し繰り返し、雫を落としてみました。多少明瞭になった目で貴方を見たけれど、幻聴だとでもいうように吊り上げた口角は音を放っていなかったのです。

ただ肌寒い雪原の丘、遠く黒い城があって、後方、戦闘の跡を残す場所には誓いのままに共に歩んできた仲間がいて。貴方の横に立ち、同じように城を見たけれど、私の目は乾くことなく泣き続けていました。

恒星の周りを巡る私たち。ああ、きっと、あの闇色の君主こそが太陽なのです。所詮外れることも叶わないこの大きな環。

流星群が見れるかな、と問うと、なんだそれ、と笑って金髪を揺らす貴方。
地表を覆う雪に消える笑い声が儚くて、私はただ泣きました。外気が熱を吸い取って、睫毛が凍って、瞼が重くて目を伏せました。

薪を拾う貴方の手が私に触れてくることはついになかったですね。
こんな寒いところまで、貴方は誰の手も取らず、ただ星を見て笑うのですね。嘲笑。あの夕焼けに溶けるように響いた、温かい声はもう聞こえなくて。
私は、私は。

貴方の踏んだ白がザクリと音を立てたのを聞いて、また幻聴かと思って目を閉ざしたままでいたら、微かに凪いだ空気を頬に感じて、私は凍った目を薄く開けました。
貴方は城の方へ一歩踏み出していました。丘は広くて、貴方の横に立とうと私は足を動かしたのだけれど、踏みしめた二歩は音を立てませんでした。

先にそびえる黒い城。
柔らかく、背後に月が浮かんでいて、きれいすぎて私は笑いました。
藍に、愛に染まる空がなければ、こんなに映えて見えたりしないのでしょうね。なんてずるい人間。

月だね、と囁く貴方に、そうね、と返した声は、丘を越えて大気に溶けてしまいました。
寒さに身震いして、私は身を翻して野営の準備に戻りました。
貴方はまた泣くのでしょうか。あの日の、流れ死ぬ星たちを弔う、地を潤した涙を、また流すのでしょうか。

どうか、私には拭えないその雫が落ちる前に、凍らせてあげてください、神様。そうしたら私が最期の熱で溶かすから。



(太陽なんていらない)

(けれど、太陽がなければ月が輝けないのならば、どうぞこの手を焼いてください、もう耳を塞げぬように)


星葬

→葬列


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